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【演題名】矯正治療における歯周病学的配慮(2007年)

Considering Periodontics in Orthodontic treatment

【抄録】歯周病は全身の健康に影響することが判り、歯科医は、成人の患者さんに対して、歯周病のリスクファクターの評価し、内科、医科的な既往歴をとることが要求されるようになってきている。注意すべき家族暦、たとえば、患者さんが糖尿病に罹患し血糖のコントロールができていないとなると、微小血管に障害が出現し、傷の治りが悪くなり、歯周病が進行しやすくなる。又、生活習慣などの行動上のリスクファクターであるストレス、タバコ、プラークコントロール等の問題は、感染に抵抗する白血球数を減少させ、生体の抵抗力を下げバクテリアをコントロールするホストの反応に影響する。矯正治療はプラークが生存しやすい環境を作り、歯周組織に負荷を加え、リスクファクターになりうる。たとえば、最もポケットが再発するのは、上顎犬歯と第1小臼歯の間、上顎第2小臼歯と第1大臼歯の間の小さい歯から大きい歯に移行する部位である。上顎第小臼歯と大臼歯の間に凹みが存在して清掃困難であるので、この部の歯肉に矯正用バンドを近づけてしまうと歯周ポケットを深くする。矯正治療における歯牙移動は、歯牙の移動側において骨吸収され、牽引側では歯根膜を介し骨にテンションを加わることによって達成される。骨は生理的な機能下で生息し、緊張状態で形成されるが、負荷状態で吸収される。しかし、どこまでが、緊張で、どこからが負荷かは判断できない。成人矯正治療は、骨吸収が骨添加を上り、歯槽骨、乳頭を失いがちなるので、成人矯正治療を行うにあたって、どのようにして生体の免疫機能を引き出し、歯周組織を配慮するか、考えてみたい。

 

【演題名】矯正治療における顎関節の配慮(2011年)

顎関節症などの疾患や病気は、悪い力やランダムな力によって生じるのではなく、過去に働いた自然淘汰のせいで起こる。疾患は、遺伝子の伝達を最大化するように自然淘汰が体を作ってきた挙句の妥協の産物である。残された子供たちのもっている遺伝子の利益のために存在する。私たちがもつ感情も、自然淘汰によって適応的に作られている。不愉快な感情は、痛み、嘔吐に似た防御反応である。疾患には、1.器質的疾患:病理的、解剖的変化に基づく。2.機能的疾患:神経生理的変化に基づく。3.心理的疾患:情動や本能、あるいは、環境で誘発される心理的次元における疾患がある。心理的疾患とは、心理的ストレスで誘発される疾患であるが、Nobel PrizeのHans Selyeは、心理的ストレス刺激で機能的疾患が誘発されることを証明した。これはまた、器質的疾患も生じさせる。顎関節症は、Psycology:心理、Posture:姿勢、Parafunction:異常機能、Pain:痛みの4Pが作用し、活性化し、お互い修復しあって誘発されることになる。

 

TMD治療における矯正治療の必要性を考える(2012年)

The need of Occlusal Treatment in TMD treatment

【緒言】 木から降りてきた我々の先祖は立ち上がった結果、手が自由になって顎を使わなくなったかわりに群れを作って道具を使うようになった。道具を使用し集団が大きくなれば、社会的関係に対応するために脳が肥大化し頚や顎に負担が増大した。さらに約1万年前、大型動物を殆ど食べつくしたため農耕が始め近代文明が発祥させ、農耕によって1つの作物に頼るようになり、ビタミン、ミネラル不足によって顎骨の退化、不正咬合、骨関節炎などを被るようになった。文明が始まると暮らしが一変し、便利さを追求する中で、ストレスにあふれた社会を生み出した。二足歩行を選び文明を作った人類の宿命とされているが、ストレスに対する防衛規制として食いしばりするようになり、咀嚼器官への負担が増大し多くの人がTMD(顎関節)を経験するようになった。基底不安の防衛の為の反動形成されたくいしばりなどのパラファンクションは、不安などの動因が誘発した強迫的な行動である。基底不安を経験したものは、不安を直面することが出来ず、不安から逃れる為、防衛の手段として用い、TMDに発展させると考えられている。しかし、TMDの病因、自然経過もはっきりしていなく、関節、筋肉の診断基準、診断テストもなく、治療方針も確立されていない。複数の診断名をもって同時に進行し、複数の疾患が同じような兆候、症状を有している。Boringらの研究 はTMDが兆候、症状は時には、再発し、ときには、リモデリングし自然適応して自然に消滅していくことを示した。そのような研究が続き、主要因は咬合よりも、社会、心理や行動面などにあると考え、咬合賛美の波は弱まり、スプリント治療は次第に淘汰され、治療は疼痛管理に転換していった。顎が痛いとする患者さんに対し、歯科医は、咬合を直さねばならないととらわれていた。TMDの専門医の丸茂先生によると歯科医は、豊かな創造性と、仮説への強烈なこだわりによって視野が狭められ、当たり前のことが見えなく、他の可能性を考えなく、不合理という点で、歯科医も病的な妄想を持つ患者とまったく変わらないと指摘した。一方、矯正歯科界では、矯正専門医のRothに絶大な影響を受け、主要因は咬合であると考え、第1期治療でスプリントを用いてCRに誘導し、第2期治療で、スプリントで得られた位置での咬合を確立するために矯正治療を行うようになった。この方法を国内では矯正専門医の池田先生の活躍によって矯正歯科界でしっかり守られている。TMDとは口腔顔面痛の一つであり、顎関節に痛みをおこす疾患の総称である。近年、TMDに対するプロトコールが明確にされ、投薬、行動療法などのメディカルモデルの治療が広まっている。歯科医が疼痛管理の専門的な知識がなくとも咬合治療というデンタルモデルを用いていかにして治療に参加できるか考えた。疾患、障害は、悪い力やランダムな力によって生じるのではなく、過去に働いた自然淘汰のせいで起こる。疾患は、遺伝子の伝達を最大化するように自然淘汰が体を作ってきた挙句の妥協の産物である。残された子供たちのもっている遺伝子の利益のために存在する。私たちがもつ感情も、自然淘汰によって適応的に作られている。不愉快な感情は、痛み、嘔吐に似た防御反応である。肉体的な痛みを感じる能力が、損傷を守るために進化してきたと同じように不安を感じる能力は、危険や脅威から身を守るために、筋痛、筋疲労が筋肉を使いすぎないように、TMDになることが、顎を使いすぎないように進化してきた。

 

【演題】歯科治療のリスク管理(2018年)

【目的、方法】歯科医は、治療、医院経営、コミュニケーションなどで、失敗、トラブル、ヒューマンエラーを経験する。ハインリッヒは、1つの重大なエラーには、30の軽微なエラーが存在し、300の大事に至らなかったヒヤリハットがあり、大きなものは小さなエラーの延長線上にあるとしてハインリッヒの法則(Heinrich's law)という経験則を報告した。この教訓によって、軽微なエラーを防いでいれば大きなエラーは発しづらいものであり、色々な分野に適用されるようになっている。ヒューマンエラーは、日本工業規格(JISは、意図しない結果を生じる人間の行為と規定し、人為的失敗(ミス)のことで、慣れたころが一番危ないとしている。ヒューマンエラーによる事故を引き起こす可能性のある要因に1.動作の失敗、2.不注意、3.行動の錯誤、4.人的問題、5.安全手段の省略6.危機感などが考えられる。リスクの認知、リスク=重大性×生起確率であることが示され、歯科医は、問題の生起確率は低いと捉え、専門家が考えるリスクとの乖離がある。リスクとべネフィットの間には、一方が高くなると、一方も高くなるという正の相関関係がある。人は必然的に誤りを犯すもので決してゼロにできない。舌側矯正治療などにおいては、特に失敗はつきもので、いかにしてエラーを認知し、対処するか考えた。【結果、考察】社会心理学では、注意によって誤りを最小化するには、ヒトは必ず誤りを犯すのだと認識することだとしている。大切なのは、誤りをシステム全体に関わるトラブルや事故につなげないような予防システムを考え、そして、歯科治療の失敗、歯科医院の経営の失敗、トラブルを、いかにして、社会においても望ましい状況に向かうためのきっかけにし、成長させる機会にするか?であると考えられる。