caries 顔 癖 不正咬合 姿勢
虫歯 顔 習癖 不正咬合 姿勢
鼻づまり 歯周病 顎関節症 スポーツ ストレス
鼻づまり 歯周病 顎関節症 スポーツ ストレス
子どもの理解 機能的矯正治療 認知症 舌側矯正治療 認知行動療法
子どもの発達 機能的矯正治療 認知症 舌側矯正治療 認知行動療法

ガミースマイルの治療

顔全体に対する評定と、顔と各部の評定の相関を分析した結果、顔全体の魅力度と最も相関が高かった順位は、1.口であり、2.眼、3.髪、4.鼻の順序で、魅力度と最も相関が高いのは眼よりも口である¹⁾。
¹⁾Terry,R.L.Further evidence on components of facial attractiveness.Percep.Mot.Skills 45:120,1977.
顔は印象形成に影響を与え、顔の印象形成に最も大きな影響をするのは口元であり、口は顔の魅力のもっとも重要な構成要素であるとされている²⁾。
²⁾Shaw,W.C.Influence of children’s dental-facial appearance on their social attractiveness as judged by peers and lay adults.Am J.Orthod.79(4):399-415,1981.
顔の美はヒトが環境や社会の中で学習して身につけた学習でなく、進化の過程で生存の為に選択された適応的な感覚である。 不正咬合に起因する顔の美が自尊心に影響を与え、社会的相互作用に消極性をもたらされ、負の社会的フィードバックによって、防御的反応を生じがちになる。しかし、矯正治療などによる口腔審美の改善によって、自尊心、自己評価が高まる傾向がある³⁾。
³⁾O'Brien,K.Wright J,Conboy F,et.al.Effectiveness of early orthodontic treatment with the twin-block appliance:A multicenter,randomized,controlled trial.Part 2:Psychosocial effects:Am J Orthod Dental Orthop 2003;124:5
ガミースマイルも、中程度の露出は若く見られ、受け入れられるが、ひどくなると顔の審美性を失うことがある。スマイルしたときに上口唇が上顎切歯の歯肉辺縁に来るのが理想であり、スマイルした時にどれだけの歯肉が見えるかによって審美性が左右される⁵⁾。
⁵⁾Peck S,Peck L,Kataja M.The gingival smile line.Angle Orthod 1992;62:91-100.
ガミースマイルとは、弛緩した状態で上顎歯肉が2mm以上の露出とされている。⁴⁾
⁴⁾Tjan AHL,Miller GD,The JPG.Some esthetic factors in a smile.J Prosthet Dent 1984;51:24-28.
症例は、ガミースマイルを主訴と、上顎が過形成で、上下前歯が過萌出し、それに歯肉が付随し、スマイルすると、露出は前歯のみならず臼歯部まで及んでいた(図1)

ガミースマイルガミースマイル

図1

外科治療を望んでいなかったため舌側矯正治療のバイトプレーン効果を利用して上下顎前歯を圧下し、上顎平面を前方回転させ改善した。

露出原因の分類

ガミースマイルを誘発する原因に、1.歯牙・歯槽(①前歯の挺出②オーバーバイト③歯槽の垂直的過大)、2.口唇(①スマイル時の上唇挙上筋の増強②上唇の短縮③過大な安静時の口唇の空隙)、3.骨格(①ロングファイス②咬合平面の後方回転③上顎平面の前方回転)などの問題が考えられる⁶⁾(図2)。 ⁶⁾Peck S,Peck L,Kataja M.The gingival smile line.Angle Orthod 1992;62:91-100.

図2:ガミースマイルの原因

露出分類

ガミースマイルは、露出が前歯部のみと、臼歯部まで及ぶものに大きく分類することができるが、1.前歯部露出に対し、歯周補綴、あるいは、矯正治療が用いられ、ポケットがある場合は歯肉切除、ポケット少ない場合は、クラウンレングセニングして骨縁を下げ補綴修復するが、矯正治療の場合、上顎前歯を圧下し、歯肉辺縁を上げる。近年、それを効果的にするため、固定源とするアンカーインプラントが用いられるようになってきている⁷⁾。 ⁷⁾Kanomi,R:Mini-implant for orthodontic anchorage,J.Clin.Orthod.31:763-767,1997通常、ガミースマイルが2.臼歯部まで及んでいる場合は、上顎骨を切断して、骨自体を上方に挙げ、歯肉が隠す外科手術が適応とされている⁸⁾(図3)。
⁸⁾Peck S,Peck L,Kataja M.The gingival smile line.Angle Orthod 1992;62:91-100.

ガミースマイルの治療

図3:ガミースマイルの治療

ガミースマイルの露出による分類(図4)
フルスマイルした際の通常の露出は、上顎前歯の75-100%の露出で、若い人の約70%を占める。低露出は、75%未満しか露出しないタイプで、20%に見られる。高露出は、全上顎切歯の歯肉が露出している場合で、10%に見られる(図5)。
Peck S,Peck L,Kataja M.The gingival smile line.Angle Orthod 1992;62:91-100.

図4

ガミースマイル ガミー低露出 ガミースマイル高露出 ガミースマイル、下顎露出

正常露出

 

低露出

 

高露出

 

下顎露出

 

図5

ガミースマイルの分類(露出)

露出値

露出値(図6)
リラックスした状態での上顎切歯の露出は、15歳男子で4.7mm,女子で5.3mm⁷⁾で
⁷⁾Peck S,Peck L,Kataja M.The gingival smile line.Angle Orthod 1992;62:91-100.
30歳より前の上顎前歯の露出は、60歳以降の下顎切歯の露出と等しい。露出には性差が存在し、口唇安静時の上顎前歯の露出の平均は、女性の平均は、3.4mmで男性1.9mmに比較して2倍大きく、下顎前歯の露出が少ない⁸⁾(図7)。
⁸⁾Vig RG,Brundo GC.The kinetics of anterior tooth display.J.Prosthet Dent 1978;39:502-504.
加齢によって下顎前歯の唇が下降し下顎露出になる⁹⁾。
⁹⁾Tjan AHL,Miller GD,The JPG.Some esthetic factors in a smile.J Prosthet Dent 1984;51:24-28.

ガミースマイル評価

図6:露出評価

図7:平均露出値

治療方針

ガミースマイル治療には、歯周、補綴、矯正、外科治療が考えらえる(図7)。1.歯冠長の計測.2.咬耗の存在の有無.3.歯肉溝の計測、4.歯肉口唇関係によって、歯周治療か矯正治療か選択しなければならない(図8)。

 

ガミースマイルの治療

図7:治療方針

図8:治療方針要因

初診時所見

図9

ガミースマイル

ガミースマイルの治療計画

ガミースマイルの治療計画において、1.上顎前歯歯冠長、2.インターラビアルギャップ、3.上顎前歯の歯肉溝、スマイルラインを評価しなければならない。(図10)

ガミースマイル治療の評価項目

図10:ガミースマイル治療の評価項目

1.上顎前歯歯冠長

上顎前歯歯冠の長さを計測し、歯周外科を行うことで歯冠長はどうなるか?それによって歯冠を長くして良いか判定する。上顎中切歯は長さの理想は10~11mmでリラックスしたときに4mm位の露出である¹²⁾(図11)。 ¹²⁾Renner,R.P.,口腔解剖と審美性入門,内山洋一監訳, クインテッセンス,53-60,1992.
歯冠長が10mm未満になると短く,11mmを越えると長く認知されることになるが、症例の上顎前歯歯冠長は10mm、幅は8mm、正常範囲に入っているので(図12)、クラウンレングセニングの適応ではない。咬耗などによって歯冠が短いのであればクラウンレングセニングの適応になる。

前歯歯冠長

図11:上顎中切歯歯冠長

図12:上顎中切歯歯冠長:10mm

2.インターラビアルギャップ:上下ストミオン間距離

露出の治療において、口唇をリラックスさせたときの上下口唇のストミオン間の距離は1-3mmが望ましいとされている。4mm以上になると口唇閉鎖不全と診断される(図13)。
値が大きい場合は上顎前歯を圧下することが、値が小さい場合は下顎前歯と圧下して改善する。過蓋咬合は下顎前歯露出が増大するので、上下顎両前歯を圧下する。¹³⁾
¹³⁾Kokich VG,Nappen DL,Shapiro PA.Gingival contour and clinical crown length:their effect on the esthetic appearance of maxillary anterior teeth.Am J Orthod 1984;86:89-94.
症例は過蓋咬合であるので下顎前歯も圧下する必要がある(図14)。

図13: インターラビアルギャップ正常値

図14: インターラビアルギャップ値

3.上顎前歯歯肉溝

歯肉溝、付着歯肉が存在していれば、歯肉切除などの歯周治療によって軟組織を歯肉切除し歯冠を長くして露出を改善することができる。症例は歯肉溝が少ないので、歯肉切除することはできない。(図15)

 

ポケットデプス測定

図15ポケットデプス値

4.スマイルライン

E発音

アルファベットのEの発音で、切端の位置、また、長くしてもよいかの判断基準になる。連続してEの発音をしてもらい、1.上口唇と2.下口唇の境界に線を引き、その中央に3.中央の位置に線を引き、スマイルラインはこの線上に位置させる必要がある(図16)。その理由は上顎前歯の切端がこの線より下方に来ると上顎切歯が長く、上に来ると短く感じられるからである。

図16:スマイルラインの設定

F発音

最終的にF発音の時に、上顎前歯切端が下唇のウェットゾーン上を移動できるように(図17)スマイル時、上顎の歯が描く弧であるスマイルラインは下唇の彎曲に従うにようにすることが目的となる。¹⁴⁾(図18)。
¹⁴⁾Janzen E.A balanced smile-A most important treatment objective.Am J.Orthod 1977;72:359-372.

smile line

図17:上顎前歯切端が下唇のウェットゾーン上を移動

図18:スマイルライン

歯周治療の適応症

歯周治療の適応症は短い臨床歯冠長、過剰な歯肉縁に起因するガミースマイルである。¹⁵⁾

¹⁵⁾Garber DA,Salama MA.The aesthetic smile:Diagnosis and treatment.Periodontology 1996;11:18-28

1.歯肉切除

歯肉切除:歯肉溝が存在し、付着歯肉があれば、歯肉切除などの歯周治療によって軟組織を歯肉除去し、歯冠を露出させて改善する。

2.クラウンレングセニング

歯肉溝が少ないため歯冠を長くすることが出来なければ、フラップを反転挙上しクラウンレングセニングによって、骨切除して組織を根尖方向に移動し、エナメルを適切な量だけ露出させ、歯冠の長さを増加させ、調和のとれた歯肉形態、適正な歯冠長にしてフラップを戻して修復する。症例は、歯冠が短くないので、クラウンレングセニングを行えば、歯冠長は長くなってしまうので歯周治療の適応症ではない。

治療方針の決定

ガミースマイルの露出が前歯部だけの場合は歯周補綴か矯正治療が適応になるが、露出が前歯部だけではなく臼歯部まで波及していれば(図19)上顎の過形成ということになり、安静時の歯肉の露出を隠すため上顎骨の垂直的削減を行うことが適応になる。¹⁶⁾
¹⁶⁾Peck S,Peck L,Kataja M.The gingival smile line.Angle Orthod 1992;62:91-100.

 

ガミースマイル

図19:臼歯部露出は外科治療が適応になる

治療計画

患者は、外科治療を拒否したので矯正治療のみで基準値のオーバーバイト:4mm,オーバーバイト:3mmに近づけるため(図20)、舌側矯正装置のバイトプレーン効果を適用した(図21)。

舌側矯正装置

図20:オーバーバイト、オーバージェット基準値

図21: バイトプレーン効果で上下顎前歯が圧下される

目標は、上顎前歯の4mm圧下、下顎前歯の2mm圧下(図22)、上顎平面の上方回転(図23)に依る上唇による露出歯肉の被覆である。(図24)

図23

上顎前歯の目標:4mm圧下

下顎前歯の目標:2mm圧下

図:23: 上顎平面の上方回転

 

【結果】

【結果】(図25,26)


ガミースマイルの治療後ガミースマイルの治療後

舌側矯正装置の効果による上下顎前歯の圧下によって改善がみられた(図26)。

治療前後の比較

図26:治療前

図27:治療後

外傷性咬合を防止するために、咬合力を抵抗中心に近いところを通過するようにする必要があり、抵抗中心を通過する圧下力を加えると歯体移動が生じる(図27)。唇側矯正装置の場合、圧下のための力の適用点は、切歯の抵抗中心の前方を通過することになり、上方移動と唇側回転をもたらすことになる¹⁶⁾(図28)。
¹⁶⁾Kuben-Messenburg,D.,Jagar,A.and Bleifuss,P.Incisor position analysis.J.Clin.Orthod.20:37-42,1986.

図27: 抵抗中心(●)

図28:唇側矯正装置の前歯への圧下力は唇側傾斜させる

一方、舌側矯正治療は、抵抗中心から舌側にベクトルが通過するため、前歯リンガルクラウントルクがかかり上下前歯の圧下される(図29)。

center of resistance

図29:舌側矯正装置は前歯を圧下させる

【結論】

矯正治療は、後方臼歯の挺出により、咬合平面の下方回転によって下顎は下後方回転させ、下顔面を開けガミースマイルを作る傾向がある。矯正治療で用いられるⅡ級顎間ゴムも咬合平面を下方回転させてガミースマイルを誘発する。また、Ⅲ級顎間ゴムも咬合平面を前方回転させて下顎ガミースマイル、口唇閉鎖不全を誘発しがちになる。症例は、舌側矯正装置のバイトプレーン効果によって上下顎前歯を圧下して口唇閉鎖不全、ガミースマイルの改善に寄与する可能性が示唆している。